次男(眉太)さん
最新の記録ノート
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07年06月16日(土)
クリスマスキャロル。 |
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< ポルナレフ
| 自然読みもの。 >
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浪人の頃の不思議な話です。
僕は一人暮らしをしていて、家に帰ることには無関心というか気にも留めていなかった毎日でした。
勉強もせずパチンコばかりしていました。
ある日、いつものように家に入ろうとして、ドアノブを持ったときに。
「ちょっと待って。」
そんな声が聞こえた気がして、ドアノブを握ったまま立ち止まりました。
直感で、
「ドアノブが話しかけてきた…。」
って、なぜだか思ったんです。
僕はもう一度ドアノブを握り締めました。
寒い冬の日だったけど、ドアノブは、心なしかほんのり暖かくて。
きっと僕のために暖めてくれていたんだなって気付きました。
きっと、僕と同じようにドアノブも寂しかったに違いありません。
僕はまだ家を出ればいろんな人と話したりするけれど、ドアノブにとって一人暮らしの僕は唯一の触れ合う相手なのですから。
それからドアノブと僕の交流が始まりました。
僕は家に帰るとドアノブをいつもよりも長く握り締め、
「ただいま」
って小声で言いました。
ドアノブも時にはスムーズに開き、ときには僕を離したくないのかなかなか開かなかったりで僕はドアノブとの交流が親密になっていくのを感じました。
僕はクリスマスの朝に、ドアノブにもこもこペンで名前を書いてやりました。
そのままなのつまらないので○○ノブと。
「よーし。今日からお前は僕の弟だ!○○ノブ、よろしくな!」
そう僕はドアノブに言ってずっとドアノブを握りしめていました。
僕の家に来る郵便配達員や新聞屋さんはもこもこペンで○○ノブと書いてあるドアノブを不思議そうに見ていました。
また、回覧板については皆ドアノブにかけていたのですが、僕のいない間に○○ノブがひたすら回覧板をぶら下げて苦しんでいることが我慢できず、回覧板用のフックを取り付けました。
もちろん、「回覧板はこちらに。決してドアノブには掛けないでください。」って張り紙もしました。
でも、そんな幸せも長くは続きませんでした…
正月は、部屋の中も色々と模様替えして新年を迎えました。
○○ノブと迎える正月を気持ち新たにがんばろうと意気込んでいたのです。
ある日、家を出ようとするとバチッとものすごい静電気が○○ノブから流れてきました。
○○ノブが僕を家から出したくないんだ!
僕はそう思い、○○ノブにこう言いました。
「ねえ、またすぐに帰ってくるからさ、機嫌を悪くしないでくれるかな?」
しかし、その日から出かけようとするたびに静電気が○○ノブから流れるようになりました。
もう我慢できない!
新しいドアノブに換えてやる!
さすがに僕も腹が立ち、工具を持ってきて○○ノブを取り外しました。
その間、○○ノブは鉄の塊になったように冷たいままでした。
翌日、ゴミ袋に入れて○○ノブを捨ててしまいました。
(はー、せいせいした。)
(やっぱりドアノブはドアノブだな。)
そう思いながら、僕は新しいドアノブを取り付けました。
夜にコンビニでヤングチャンピオンを立ち読みしようと思い、家から出ようとしたとき…
バチッ
そのとき、僕は全てを理解しました。
模様替えして敷いたカーペットのせいで静電気がおきていたことを!
その静電気を蓄えた僕がドアノブに触ってバチッとしていたことを!
僕は、
○○ノブに傷つけられていたつもりが
○○ノブを傷つけていたのです。
○○ノブは、怒りもせずじっと耐えていただけなのに…
「○○ノブ、○○ノブ、○○ノブーーー!」
僕は半分狂人のように、○○ノブの名前を叫びながら階段を降りました。
ゴミ置き場にはもうゴミがないのに、僕はコンテナをひっくり返しながら探しました。
○○ノブ…
○○ノブ…
なんで、燃えるゴミで○○ノブを出してしまったんだ…
○○ノブは燃えないのに…
きっと火の中で燃えずに熱がっているんだろうな…
そして、灰と一緒に埋められるんだろうな…
僕はなんてことをしてしまったんだろう…
なんで、いつもみたいに小うるさいおじいが俺のゴミの中身を確かめて「これは燃えないゴミじゃー」ってつき返してくれなかったんだ…
そしたら燃えないゴミの日まであったのに…
うっううううう
僕はその場にしゃがみこんで声を殺して泣きました。
途中に近所の猫好きのおばあちゃんが、やたらと猫くさい手を差し出して、「大丈夫?」と聞いてきましたが、その猫くさい手を振り払うだけで精一杯でした。
僕は大人になりました。
受験には失敗し、裸一つで上京しました。
そして、以前から決めていた仕事を始めました。
古美術商です。
古美術商であれば、もしかしたら○○ノブに出会えることもあるかもしれない。
そんなほんの小さな期待を抱えながら毎日を過ごしました。
そして、今の妻と出会い、3人目の息子に恵まれました。
「ねえ、3人目の息子の名前って僕が決めていいかな?今までは運勢だけで名前決めてたけど、3人目が生まれたら絶対つけたい名前があるんだ。理由は言えないんだけど。」
「いいわよ、子供には東大によく受かる名前とでも言っておくわ(笑)」
そして僕は生まれたばかりの3番目の息子を抱きかかえ、言いました。
「よーし、お前の名前は○○ノブだ。今度も弟だな。今度のお兄ちゃんたちは俺と違っていいやつばっかりだからな(笑)」
あれから28年。
○○ノブは、結婚し自分の家族を作ろうとしています。
たまに実家に帰ってくるときに、今でも○○ノブだけはしばらくドアノブを握ってから家に入ってきます。
僕は、座椅子に寝転びながらそれを見て、いつもこう思います。
ああ、○○ノブが帰ってきたんだな、
と。
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